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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)51号 判決 1950年3月10日

被告人

橫山久七

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人渡辺信男の控訴趣意第一点について。

所論裁判官植村秀三に対する被告人の陳述調書は刑事訴訟法第六十一条に基き勾留前裁判官が被告人に対し被告事件を告げこれに関する意見を聴取した調書であるから刑事訴訟規則第百六十七条第三項により第一囘公判期日の開かれたとき速に裁判所に送付さるべき書類に該当する。原審第一囘公判期日に開かれた昭和二十四年十一月十五日右調書が原裁判所に送付されたことが記録に依り明であるから右送付の手続に違法はない。論旨は理由がない。

(弁護人渡部信男の控訴趣意)

第一点 公判期日に於て取調を請求せず従つて何等取調の手続をしない被告人の自供調書が検察官から裁判所に提出された訴訟手続違反がありこれが判決に影響を及ぼすことが明であること。

記録第十二丁及び第十三丁に依ると検察官より(六)田中業雄提出に係る仮還附請書一通の証拠申請があり被告人及び弁護人は之を証拠とすることに同意したので検察官は之を朗読して判事に提出したとあるが検察官より裁判官に右(六)の証拠書類は提出されず反えつて検察官より何等証拠申請もされず被告人及び弁護人の同意もなく更に検察官より被告人及び弁護人に展示朗読もされて居らないところの合田德秀の仮還付請書(記録第十五丁)及び裁判官植村秀三の被告人に対する陳述調書(記録第十七丁)が刑事訴訟法第二百九十九条第二項第三百二十六条第三百五条第三百一条等証拠書類の証拠調に関する各法条の手続が何等されないで裁判所に受理されたことは違法である。

然も被告人は公判で本件羽二重は合田德秀から買受けたもので所有権は被告人のものと弁解して無罪を主張して居るのに右記録第十七丁の被告人に対する陳述調書には被告人が「事実はその通り間違ありません」と所謂公訴事実を自白して居るので裁判官は公判審理の初に法定の手続をして居らない右陳述調書により被告人が有罪であることの偏見又は予断を持つて本件を裁判したものである。

右の如く被告人は本件の羽二重二十疋を合田德秀から買受けたもので橫領したものでないと抗弁して居るにも拘らず裁判官は右違法の証拠書類である被告人の陳述調書により無罪であるべき本件に付審理の冒頭から有罪ときめてその判決をしたものであつて右訴訟手続は法令に違反し其の違反が判決に影響を及ぼすこと明であるから刑事訴訟法第三百七十九条に該当し原判決は破棄を免れない。

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